iPhone, iPadそしてKindle Unlimitedの登場もあって、電子書籍もずいぶんと市民権を得てきています。
2022年以降、すべての子ども達を対象とした「教科書の電子化」も行われる予定ですし。
ただ、多くの人が何となく「電子書籍と紙の書籍って違うものだよね?」という感覚をお持ちなのでしょうか。
電子書籍を読む時に気をつけることってあります?
そんなご質問をちょくちょくいただきます。
この手の話は世界中で研究、検証されてきていますので、ここまで分かっていることをいくつか…。
読書スピードや理解度って違いが出るの?
読書スピードはどう?
様々な研究があるのですが、私が最近読んだ論文から。
ま、どの論文でも結論にそれほどの違いはありません。
“university students use of computers and mobile devices for learning and their reading speed on different platforms” in 2016
南アフリカ大学の学生を対象とした実験です。
もともと遠隔教育におけるPCやタブレットをどう活用したら良いかという研究らしいのですが、その中で「デバイスが違うと、読書の質と速さはどう変わるのか?」というテーマで論文がまとめられています。
The results indicated that participants read more words on paper than on computer screen or mobile device.
Rockinson-Szapkiw, Courduff, Carter, & Bennett(2013)
▼寺田のてきとー訳
結果として、紙のテキストを読んだ参加者の方が、PCやモバイルデバイスで読んだ参加者よりもスピードが速かった。
だいたい3割くらい電子媒体(タブレット、パソコン)の画面の方が遅くなっています。以下、該当する部分を抜き出しておきます。
Reading Speed
Rockinson-Szapkiw, Courduff, Carter, & Bennett(2013)
The page that was read by participants consisted of seven sections. The participant’s reading speed for the whole page was calculated. The average speed for participants who read on paper was 150 words per minute. Participants who read on computer screen had an average of 106 words read per minute. Those who read on mobile device had an average speed of 110 words per minute, see Table 3.
▼寺田のてきとー訳
参加者には7セクションからなるものを読んでもらった。その全部を読み終わった時間から読書スピードを計算している。
紙の書籍を読んだ参加者の平均スピードは150words/minであった。PCの画面上で読んでもらった平均スピードは106w/m。モバイルデバイスでは110w/mとなった。
これまでに発表されているデータを見ても、だいたい「電子媒体の方が、3割くらい落ちる」という結論が出ています。
ちなみに、小学生のデータを見ると、それほど変わりないか、むしろ電子書籍の方がスピードが上がるという結果が出ています。まぁ、何を読んだかとか、どういう設定(タブレットの表示設定)だったかとか、いろいろ条件によっても違うでしょうし。
こちらの論文では「速さも理解度も違いは見られなかった」という結論に至っていますが、論文中で示されている先行研究では、以下のように語られているとしています。
“Tablet vs. Paper: The Effect on Learners’ Reading Performance” in 2012
The findings of these studies suggest that it is 20-30% slower to read a paper printout compared with an electronic text (Muter et al., 1982; Gould & Grischkowsky, 1984; Gould et al., 1986; Mayes, Sims, Koonce, 2001). A study conducted by Wagner and Sternberg (1987) determined that students reading electronic texts were capable of understanding the main theme of the text, but they were not capable of remembering the details of the text.
Dündar & Akçayır(2012)
▼寺田のてきとー訳
これらの研究で分かったことは、紙で読んだ生徒は電子テキストの場合より20-30%ほどスピードが遅かったということだ。ワグナーとストレンバーグによる研究では、電子テキストを読んだ生徒達は、テキストの主たるテーマについて理解することはできたが、テキストの詳細を記憶することができなかった、と結論づけている。
太字部分がそうですね。(^^)
ただし! 次の赤いマーカーを入れた太文字部分に要注意です。
理解の質と記憶はどう?
上に紹介した小学生の実験と同様の結果が、大人の実験でも出ています。これについてはこちらが詳しいので、どうぞ。
“Want to Remember What You Read? Switch to Paper” in 2014
ま、タイトル通りです。
日本の研究所のものもあります。
トッパンフォームズ(株)ニュース「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」 in 2013
同じ情報であっても紙媒体(反射光)とディスプレー(透過光)では脳は全く違う反応を示し、特に脳内の情報を理解しようとする箇所(前頭前皮質)の反応は紙媒体の方が強く、ディスプレーよりも紙媒体の方が情報を理解させるのに優れている
トッパンフォームズ・ニュースリリース(2013年7月23日)
もう1つ。こちらは、ストーリーのプロットの記憶が弱いぞって話。Kindleで読んだ人は、登場人物や、細かな話は問題なく憶えているのだが、話の筋を忘れてしまっている、というわけです。
“Reading Literature on Screen: A Price for Convenience?” in 2014
…both groups of readers responded almost equally to questions dealing with the setting of the story, the characters and other plot details. But, the Kindle readers scored significantly lower on questions about when events in the story occurred.
▼寺田のてきとー訳
両方のグループで、ストーリーの設定、すなわち登場人物であるとか、詳細なプロットに関する問いについての回答にほとんど違いは見られなかった。しかし、Kindleで読んだ方のグループは、ストーリーの中の出来事がいつ起こったのか?という問いについての回答が明らかに低かった。
研究によって、いろいろ細かな点では違いがありますが、概ね「電子書籍で学ぼうと思う場合には、配慮が必要そうだ」ということが分かります。
結論:「電子書籍を読む時の留意点」について
以上のことを理解した上で、「紙の本を読む時と、何か違う気遣いは必要か?」というお話。
読むものを分けるといいかも!
話のプロットはどうでもよくて、主張やポイントがつかめれば良いっていう、ビジネス書、ノウハウ書、自己啓発書ならいいかも知れません。
それでも、本に書き込めないとか、前後の文脈をいったりきたりできないという不便さ、学習体験としての問題は残ります。
読みながら、あるいは読んだ後にプロットや構成をメモしよう!
電子書籍のメリットもデメリットも理解した上で、適切に使いこなしていきたいものですね!