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電子書籍のフォントを変えるだけで読書スピードが上がるらしい─では学習効果はどうか?

速読って本当に速く読めるの? 速く読んで記憶に残るの?─ そういう疑問を持つ方も多いと思います。
そういう疑問に一つのヒントをくれるネタが入ってきましたのでご紹介します。

目次

フォントを変えると読書スピード35%アップ?!

面白いブログ記事を発見しました。ちゃんと学術論文を下敷きにして書かれたものです。

セントラルフロリダ大学(University of Central Florida)の研究結果によると、文字を自分に適した「フォント」にするだけで、読書スピードが上がるらしい。しかも、本の理解度下がらないんだそう。

フォントを変えるだけで、読書スピードは35%アップするらしい【研究結果】─TABI LABO
ソースとなる学術論文

視認性が上がるだけで読書スピードが上がるであろう事は間違いありません。
日本語ネイティブの子どものうち、読字障害を持った子らに「UD教科書体」フォントを使うことで、その負荷が軽減されることも明らかにされていますし。

中野泰志, 他:エビデンスに基づいたユニバーサルデザインフォントの開発(1)─明朝体、ゴシック体、ユニバーサルデザイン書体の可読性の比較─, 第35回感覚代行シンポジウム公演論文集, 25-28, 2009
など

文字数を調整するだけでもスピードアップ?!

こういう「視覚への負荷を下げることで読書スピードが上がる」ことは、様々な角度から研究されています。
例えば、2020年に発表された「1行の文字数は30文字前後未満が読みやすい」という研究などがあります。

小林潤平. (2020). レイアウトデザインによる効率的な読みの支援. 日本画像学会誌59(2), 219-227.

それらの知見に基づいて「iPad(タブレット端末)で無理なく速読を実現するためのTips」として解説したのが、こちらの動画。

クリックするとYouTubeが開きます
速読きぼうさん

これならスイスイ読めて、たくさんこなせそうですね!

単純に考えるとそう思ってしまうかも知れません。しかし、やはり…というべきかネガティブな影響も考えるわけでして…

理解は変わらない…として記憶はどうだろう?

効率と効果はしばしばトレードオフになるものです。
読書においては「読書スピードと理解度はトレードオフの関係にある」という大原則がありまして、今回のように物理的な読みやすさ(条件)を変化させることで「理解度が変わらなかった」としても、記憶への残り具合は別問題であることが考えられるわけです。

フォントを変えると記憶に残りやすくなる?!

実際「使用するフォント」の影響については、こういう研究があるのですよ…。

Publishing ideas in a hard-to-read typeface may make concepts harder to learn but easier to retain.
(読みにくい書体で印刷されたアイディアは、概念を理解するのに苦労するが、記憶に残りやすい。)

プリンストン大学研究結果

この記事の中では「学生さんに配布するテキストのフォントを読みづらいものに変えるだけで、それ以外の支出も労力もなしに学習効果を高められるだろう」とされています。

なので「快適に読む」ことがメリットを生む場合と、デメリットになる場合とをきちんと考えた上で、上記のようなTipsを活用しましょうね、というのがここでの結論。

あなたなら、読みやすいフォントを選びますか? 読みづらいフォントを選びますか?

速読を同じように考えてみると…

快適に読むと記憶に残りづらい…。実は速読も同じことを考える必要があります

一定レベルであれば、速読でも理解度に変わりがないことを書きました。

ただ、この記事で書いている話、つまり

この結果を見る限り、読書スピードが上がっても、理解は雑になっていないと判断できます。

これについて、学会の口頭発表のために投稿したレジュメには詳細な分析がありまして、ひとことでいうと「平均点は変わらないが、深い理解は得られていない」のです。

(深く理解するために立ち止まったり、戻ったりせず通読するという読み方であれば)読速度に関わらずテキストベースのレベルまでは得られるものの,状況モデルのレベルでの理解は損なわれる可能性があるものと考えられる。

日本読書学会2022年大会口頭発表資料
「スキミングを基本とした読速度向上トレーニングの効果に関する予備的調査」(拙著)より

引用中の「状況モデルの理解」こそが、実は書籍の内容の長期記憶に強く関係していることでもあります。また、フォーカス・リーディングでは「内声化(頭の中で音にして読み上げる習慣)の抑制」をトレーニングに組み込んでいますが、この「内声化」が強くなるほど(発話体験として強くなるほど)記憶に残りやすくなるとされています。

なので「理解はしているけれども、記憶には残りづらくなる」ことは間違いありません。
だからこそ、フォーカス・リーディングでは記憶に残すためにアルゴリズムに基づいた戦略的読書(strategic reading algorithm)を採用しているわけです。

この「確認・理解のための読み」と「記憶に残す戦略」は常にセットで考えておく必要があるということですね。

参考記事

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この記事を書いた人

1970年、福岡生まれ。名古屋大学法学部卒業。元福岡県立高校教諭(公民科+小論文)。
現在は九州大学・大学院(博士課程)に在籍し学習ストラテジー、読書ストラテジーを研究。
2001年に教職を辞し独立。教師時代から研究を続けていた高速学習と速読のメソッドを完成させ、その指導にあたる。速読と学習法を学ぶ3-4日間集中講座は98%の高い修得率と高い学習効果が話題を呼び、多くのビジネス書ベストセラー作家や経営者、MBA学生が通う人気ぶり。
 
そのメソッドを公開した書籍『フォーカス・リーディング』は10万部のベストセラー書。その他に読書や学習にまつわる様々な業務に携わった経歴を持つ。
・ベネッセ中学2年生コースの特集記事の指導・監修(2008年)
・西南学院大学での読書力養成講座(通年講座、2014年度から)
・司法書士スクールの高速学習指導(2015年度)
・学習塾経営者への学習法指導、経営指導

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