速読の「読んだ」は、普通の読書の「読めた」と同じなのか?

よく速読教室の宣伝には「一字一句を理解・記憶して、スピードだけ速い」と宣伝されています。
こういった宣伝は完全に詐欺です。もし、そのような芸当ができる人は、単なる天才だよって話は、これまでも度々書いてきました。
特に「読書スピード測定の詐欺的方法」については、ご一読を。

天才的な人の速読については、こちらの動画で語っています。天才には2種類あるという話だったり、ビジネス系のすごい人達の速読がどういう原理で成り立っているのかという話を語っています。

【99%の人が欺されてる?!】研究者にしか語れない速読の真実

基本的に読書スピードと理解度はトレードオフの関係にあります。
これは日本であれ、世界であれ、「私、速読できます!」と名乗っている人達を対象とした研究で、科学的に確かめられています。
日本で有名なものとしては、フォトリーディング®とパク・佐々木式の受講生を被験者にした実験があります。どちらも研究者の下した結論は「スピードが上がっても、理解はボロボロだから、速読って意味ないよね」というテイストです。
 
まぁ、そういう「一字一句を読んで、高い理解と記憶」なんていう夢物語的な妄想は別にしても(そもそも、ゆっくり読んだって、そんなに理解も記憶もできないものですし!)、フォーカス・リーディング講座でも、理解度85%(日常的な、丁寧な理解)の読書スピードが、訓練前と訓練後を比較すると、約3-8倍(中央値で比較すると、約4倍)になっています。
 
主観とは言え、十分に読めているという手応えを持って読んで、なおかつ数倍だぞ、と。
では、この数値は信頼していいのでしょうか?

目次

フォーカス・リーディングの読書スピード測定

フォーカス・リーディング講座では、読書スピード測定を次のような形でおこないます。
まず、使用する書籍。これは自己啓発書と岩波新書の2種類を使っています。どちらも説明的文章であることは共通ですが、内容の難度、使われる語彙がかなり違います。
2018-2019年にかけておこなった研究講座はこの2冊。自己啓発書:土井英司著『伝説の社員になれ』と岩波新書:志水宏吉著『学力を育てる』です。2021-2022年の研究講座では、自己啓発書:石井裕之著『心のブレーキのはずし方』、岩波新書:今井むつみ著『学びとは何か』の2冊を使用しています。

あえて2種類測定するのは、読みやすいビジネス書・自己啓発書を読むのと、読みやすく編集されているとは言え、学術的な内容を扱う本とでは、読み方が変わる可能性があるからです。その違いを自分の実感と、実際の数値で確認しよう、ということ。
そして、どちらも読んでいない箇所を読んでもらいます。比較のために、訓練前と訓練後の2回。

理解度は主観で判定

測定の際の指示は「いつも通りの楽しみ方、理解の程度で読んでください」という程度。その際に「いつも通りの丁寧な読書」を85%の理解と定義し、それと比較してしっかり読んだのか、ちょっと軽く感じたのかを数値で表現するよう伝えて、スピードを測るだけでなく、理解度を自己判定してもらいます。

主観的な理解度をモニタリングする指標

この「理解度85%」の手応えは完全に主観です。少なくとも、自分がちゃんと読めたという実感がなければ意味がありませんからね。

表に「ミクロ構造」という表現がありますが、これは「本全体の構成やロジック」というマクロ構造が把握できたかどうかは別として、読んでいる章のストーリーやつながりというミクロ構造が読み取れたかどうかを判定する、という意味です。

なぜ主観で済ませるのか?済ませていいのか?

本当はちゃんと読めているのかどうか、理解テストをするのが筋です。客観性を考えるなら。
各種研究でも、本人の主観的な理解は多くの場合,不正確で信頼性に欠ける(Glenberg & Epstein,1982など)と指摘されています。

それでも「主観でいいでしょ」と考えるのには理由があります。
まず、フォーカス・リーディングで目指すのは「学習のための読書」だということ。
読書による学習は目的に照らして自身の既知と未知を検討して、何をどう読むべきかを考えながらおこなわれるものです。そこで得られたものが、本当に正しい理解だったかどうかというのは、他の人とのコミュニケーションや、仕事・学習の中で試されるものだと考えています。

また、「読んだ後にテストをしますよ!」と伝えるだけで、読書スピードって一気に落ちるものなのです。必要以上に「ちゃんと読まなきゃ!」というモードになるからです。理解度も、表の中で示される95%くらいを目指すことになるかも知れません。これは心理学的な研究でも「テストをすると、読速度の柔軟なコントロールが失われる可能性があるよーと指摘されています(Samuels et al., 1975)。

実際、フォーカス・リーディングの受講者8人の例ですが…
■ビジネス書・自己啓発書の1分あたりの読書スピード
事前:1,392文字/分
⇒事後:4,926文字/分 伸び率:3.9倍
■比較的読みやすい新書の1分あたりの読書スピード
事前:1,654文字/分
⇒事後:3,743文字/分 伸び率:2.4倍
 
という結果だった皆さんに、「では、最後に夏目漱石の『坊ちゃん』で測定します。ただし、読んだ後に、簡単な理解度テストを受けていただきます。」と宣言して測定したところ、なんと【1,400文字/分】に落ちてしまいました。
確かに読みやすい本でなかったことは確かですが、ほぼトレーニング前の数値に戻っていることが分かります。

もう1つ。
フォーカス・リーディングというのは「TPOに応じて、読書のコントロールをする技術」です。設定したフォーカスや、文章の難易度などをモニタリングしつつ、最適な読み方を実現します。テストに正答できるかどうかは、読んだ時に「たまたま、テスト制作者が質問したことにフォーカスが向いていた」かどうかにかかってしまいます。それはどうなの?という思いがあります。
 
そんなわけで、客観テストみたいな理解度テストはせず、あくまで自分の理解をモニタリングすることを大事にしているのです。

主観の「同じ理解度」は本当に同じか?

主観的に「同じように理解できた」という場合でも、その理解にはかなり幅があることが、各種の研究から分かっています。

速読の分かったはイレギュラーな問いに弱い

速読の大前提は「理解とトレードオフ」であること。ですので、「理解度は変わらない」といっても、スピードが3, 4倍になっているということは、何かを軽く流しているはずなのです。
心理学研究でも(McConkie et al.,1973)一貫してフォーカスが変わらない読み方であれば、求める理解を得ながら、スピードを上げることが可能であるとされています。ただし、そのような読み方ではイレギュラーな問いに対しては答えられません。(出典:以下)

McConkie, G. W., Rayner, K., & Wilson, S. J. (1973). Experimental manipulation of reading strategies. Journal of Educational Psychology, 65(1), 1.

逆に言えば、自分の主体的なフォーカスに従って読む時、セレンディピティ的な出会いを求めさえしなければ、スピードを上げても問題が起こらないわけですね…。

ジャンルや目的意識が違うとフォーカスが変わる

同じ文章(ストーリー)を読んでも、「小説として読む」場合と、「説明文として読む」場合とでは、まったくフォーカスが変わります。
例えば、小倉昌男氏の『経営学』や、スティーブ・ウォズニアック氏の『アップルを作った怪物』、レイ・クロック氏の『成功はゴミ箱の中に』など、ビジネス小説を読む場合を思い浮かべていただくといいでしょう。
 
単純に「伝記」として、つまり小説のように事実を追ってしまうと、ビジネスに活きる教訓は得られても、抽象的で応用の利くビジネス上のストラテジーなどは読み取れないかも知れません。
逆に「ビジネスノウハウを盗む」という意識で読むと、ダイナミックな生き様や、経営者としての決断などのマインドが学べないかも知れません。
 
実際、心理学の研究でも、同じストーリーを、小説として読む場合とニュースとして読む場合とで、同じように読んでも、読み取る情報、記憶に残る言葉・内容などが違うことが確かめられています。(出典:以下)

Zwaan, R. A. (1994). Effect of genre expectations on text comprehension. Journal of experimental psychology: learning, memory, and cognition, 20(4), 920.

理解度テストの結果

この「フォーカス・リーディングの主観の理解度は信頼できるのか?」に答えるべく理解度テストをしたことがあります。
あくまで予備的調査として、わずか6名の被験者を対象にしたものです(2021年度に実施)。

使用した書籍

  • 『心のブレーキのはずし方』(簡単な自己啓発書)
  • 『コミュニケーション力』(平易な文体・内容の岩波新書)

おこなったテスト

  • 読書スピード;指定されたページを読み、それにかかった時間を測定して「1分あたりの文字数」を計算)

※文字数は該当ページをスキャンし、OCRでテキスト化した上でカウント。ただし、句読点や鍵カッコ等の記号も含んでいます。

  • 理解度テスト;20問の○×式の正誤判定問題 ※以下に解説

なお、この理解度テストは読書研究で用いられる一般的な手法で作成されており、
(1)本文で使われている言葉を、出てきた順番通りに用いて作成された、内容が適切な
(2)本文中の言葉を(1)と同様に使った、内容が不適切な文
(3)本文中で使われている言葉を、順番を変えて用いて作成された、内容が適切な文
(4)本文中の言葉を(3)と同様に使った、内容が不適切な文
(5)本文中に使われていない言葉を用いて作られた、本文に沿った内容の文
(6)本文中に使われていない言葉を用いて作られた、本文と無関係な内容の文
という6種類を、ほぼ均等に出題しています。
また、2021-2022年の研究講座では、もっと大勢の方にご協力いただいて、テストをおこなう予定です。

結果

事前テスト

  • 『心のブレーキのはずし方』平均1,115文字/分(理解度テスト:平均15.2点/20点満点)
  • 『コミュニケーション力』平均842文字/分(理解度テスト:平均14.7点/20点満点)

ちなみに、同じテストを、本を読んでいない10名(対照群)に受けてもらいました。
(「この本に書いてありそうなことに○、書いていなさそうなものに×をしてください」という形で)
『心のブレーキのはずし方』;平均10.7点
『コミュニケーション力』;平均12.6点

事後テスト

  • 『心のブレーキのはずし方』平均2878文字/分(約2.6倍);理解度テスト平均15.2点対照群平均9.9点)
  • 『コミュニケーション力』平均2,735文字/分(約3.2倍);理解度テスト平均14.8点対照群平均12.8点)

この結果を見る限り、読書スピードが上がっても、理解は雑になっていないと判断できます。

ということで結論!

ここまでいろいろ書きましたが、フォーカス・リーディングでも「同じように理解度85%で読んでいる」とはいえ、その感覚はまったく別物(フォーカスの違い、読み方のスタイルの違い)である可能性が高いので、「同じ理解度でスピードだけ4倍になった」という考え方は正しくないと言えます。

上記青枠線部にあるとおり、○×テストでは変わりなく見えますが、もう少しツッコんだテストや、多肢択一問題などになった場合にどのような結果になるかは不明です。

ただ、フォーカス・リーディングはあくまで説明的な文章(書籍)を、学びのために読むことが前提であるため、自分なりの一貫したフォーカスで、読むべきポイントを読めていれば問題ないわけです。
そして、自分の理解が本当に確かなものであったかどうかは、次の3段階で確認します。

  1. 理解読みの後のノートまとめ
  2. 本を読んだ後の出力の手応え
  3. 他者からのフィードバック

あとは、自分なりの「読めた!」が本当の意味で理解できた状態になるよう、読書力を鍛えるトレーニングをしていくしかありませんね!
 
以上、速読の「分かった」が、普通の読書の「分かった」と同じなのか?という疑問に対して解説してみました。
とりあえず「理解できていることは確か。でも、ゆっくり熟読するのとは質が違うかもよ」とご理解ください!

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この記事を書いた人

1970年、福岡生まれ。名古屋大学法学部卒業。元福岡県立高校教諭(公民科+小論文)。
現在は教室運営と並行して、九州大学・大学院(博士課程)に在籍し学習ストラテジー、読書ストラテジーを研究。
教職在職期間は8年と短期間ながら、ユニークな授業が評判となり、全国紙一面に授業が紹介されたこともある(1998年元旦・朝日新聞)。また、中学校勤務時代には20代にして進路指導主事に就任。それまで60%台だった公立高校合格率を90%台に引き上げた実績を持つ(2000年度)。

2001年に教職を辞し独立。教師時代から研究を続けていた高速学習と速読のメソッドを完成させ、その指導にあたる。速読3日間集中講座は98%の高い修得率を誇り、多くのビジネス書ベストセラー作家が通う人気ぶり。

そのメソッドを公開した書籍『フォーカス・リーディング』は10万部のベストセラー書。その他に読書や学習にまつわる様々な業務に携わった経歴を持つ。

・ベネッセ中学2年生コースの特集記事の指導・監修(2008年)
・西南学院大学での読書力養成講座(通年講座、2014年度から)
・司法書士スクールの高速学習指導(2015年度)
・学習塾経営者への学習法指導、経営指導

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