【速読】“本をたくさん読んでも賢くなれない”ってどういうこと?【多読】

昔から教育の現場で「読書力を付けたければ本をたくさん読め」とか「国語力はすべての学力の基本です」と言われてきましたし、社会人の自己啓発を煽る皆様からも「年収と読書量は比例する」「本をたくさん読むことで頭が良くなる」との主張が聞こえてきます。

しかし、残念ながら2017年に大ベストセラーとなった『AI vs 教科書が読めない子どもたち』の中で「読解力と読書量は相関しない」という事実が示されました。

何が読解力を決定するのか
(前略)
 まずは読書習慣。読書は好きか、苦手か。好きだと答えた場合はいつごろから好きか、苦手な場合はいつごろから苦手になったか、直近の1ヶ月で何冊読んだか、好きな本のジャンルは文学かノンフィクションかなど、かなり細かく尋ねました。その結果、どの項目も能力値と相関が見当たらなかったのです。

─ 新井紀子著『AI vs 教科書が読めない子どもたち』pp.222

そもそも、ベネッセ教育総合研究所が2008年に公開したレポートでも「多読は国語力につながっていない」としています。

ベネッセ公表のデータを元に作成

他の研究によれば小学校高学年以降は読書量と語彙力が相関しないという結果になっており、2016年に実施されたベネッセと朝日新聞共同の「語彙調査」の結果を見ても、高校生で週1冊読む子と週2冊読む子とを較べると、週1の子の方が語彙力が高いという結果が出ています。(それを越えると、またやや高くなっていますし、そもそも調査した語彙の種類が微妙なものですので、あまり当てにはなりませんが。)

こういう科学的な研究から得られた事実をきちんと踏まえて、速読教室さんの主張を眺めなければなりません。

目次

【事例x2】ある速読修得者が語る「1冊1分」の謎読書

昔から「本をたくさん読んだら賢くなれる」という妄想を煽って、速読業界はお客を獲得してきました。「速読多読したら頭が良くなるぞ」的な煽りですね。
それを象徴するエピソードというか事例を2つ、ご覧ください。

事例1:1冊1分で1日10冊の謎読書

昔出会った某速読教室(修得率が1%いかず、修得までに数年以上の修行が必要と言われる有名な老舗教室)の受講生さんが、ある時、誇らしげに語ってくれたことがありました。

わくわくさん

毎日10冊コンスタントに読んでいますが、1冊だいたい1分しかかかりません。

寺田

へー、それはすごい!今度、実演して、読んだ本の内容を語って見せてくださいよ。

わくわくさん

それはできません。人に語れるような記憶は残らないんですよ。でも、自分の中には残っていると確信しています。

寺田

・・・?

人に語れるような理解も記憶も残っていないといいながら、自分の中には入っていると確信できる根拠は何なんだ?って感じです。こういうのを盲信というのでしょうか…。

事例2:科学的研究で見えた「1冊1分速読家」の秘密

事例1とまさに同じ教室で8年くらい修行していた人が「私は1冊1分(12万文字/分)で読めます。娯楽の読書だったら1ページ4~6秒くらいです。」という自己申告の元で科学的な実験をしたそうです。

その結果、その方は読むのに1ページ6秒くらいかかったそうです。このスピードだと200ページの本を読むのに1冊20分かかります。1冊1分というのとは、かなり違う話ですが、恐らく、「事後に読書テストがある」ことを念頭についつい丁寧に読んでしまったということでしょう。(ちなみに、読書テストの結果は、普通の人よりも成績が悪かったけど、まぁまぁ点は録れていたらしいです。

ちなみに、同じ実験に参加した6年以上修行してた人たちは速読できなかったそうです!(スピードはやや速かったけど、あまりよく理解が出来ていなかった。)

この実験はこちらの論文で結果を公表されています。

つまり、自己満足で適当に楽しむのは1冊1分でよかったのかも知れませんが、「ちゃんと読もう」とすると、かなり普通に近い状態に戻るよ、と。

寺田

さて、事例1の彼は、本当に1冊1分で読んで、何かを学べているのでしょうか── ちょっと疑問ですよね。

速読がつくる多読は人を賢くするのか?

どういうスピードで読んでも、もちろんそれは自由ですよ。えぇ。
でも、本当に読めているか(理解できているか)すら怪しい状態で「速く読めればたくさん読めるでしょ?(当然、賢くなるはずですよね!)」的な煽りはどうなんだろうって思うわけです。

問題はその速読で何を読んで、何を学び取り、何をどう変えてきたのか?── そんなことだと思うわけですよ。投資としての読書をしようと考える人にとって重要なことは。

趣味で速読やってます!ということなら、別にそんなツッコミはいらないと思うのですが、多くの速読教室は「速読を身につけたたくさん本を読んだら頭よくなるぜ!」的な宣伝をしまくっていますからね…。

  • そもそもそんな「残っていない」「取り出せない」速読で何かメリットがあるのか?

でも、「読んだ内容を書き出しました」って結果を公表している教室もありますよ?

寺田

でも、書き出せた内容って、たまたま憶えていた内容ですよね? それで、その人が十分に読めたかどうか判断できるんですか?
しかも、読んだ内容って、その人にとって予想外なことや、知らなかったこと、難しいロジックなどは入っていたんですかね?
簡単な子ども向け小説とかでやってませんかね?

  • そもそも、普通に読んですら読解力が向上しない読書であれば、多読したところで何か知性にプラスになることはあるのか?

そんなラディカルでベーシックなツッコミを入れましょうよ…なんて、業界の片隅で思う日々でございます。

なぜ速読の多読では賢くなれないのか?

冒頭に紹介したベネッセと朝日新聞の研究からは「多読で、幅の広い読書をすることで語彙が豊富になる」とされています。これなら速読でもいけるかも!なんて気がしてきそうです。
しかし、ここでも大問題があるのです。

「速」読の宿命

まず1つ目は「速読」という読み方の宿命です。
そもそも読書スピードは次の3つの要素で決まります。

読書スピード
||
①文章の難易度
×
②読書の目的(焦点)
×
③個人の読み方のスタイル

引用元:Samuels, S. J., & Dahl, P. R. (1975). Establishing Appropriate Purpose for Reading and Its Effect on Flexibility of Reading Rate. Journal of Educational Psychology, 67(1), 38.

③の「読み方のスタイル」はいろいろな要素がからみます。トップダウン型処理かボトムアップ型処理か、神経質に読むか気楽に読むか、1回でケリを付けるか数回読む前提か、などなど。ここでは議論の対象とはなりません。

②については「ざっくり読もう」と思えば高速に読めるし、詳細に読みたければゆっくり読まざるを得ないという話です。

残る①が大問題です。この問題は重要です。難易度が高い、つまり「難しい」ということは、知らない言葉や概念が多く含まれており、また自分の読書力で簡単に読み解けない文章のロジックやレトリックが含まれているということ。

知らないことを知るだけなら高速に処理できるが、分かっていないことを理解するには時間を掛けて丁寧に理解しなければならない。

という当たり前の大前提を考える必要がありますね。そして、「知らないことを知るだけなら高速に処理できる」とはいえ、知らなかったことを記憶するためには、期間をあけた反復学習が必要になります。
つまり超高速に多読することが可能なのは、単純に考えるなら元々知っていることばかり、理解できる内容ばかりが書かれた本ということになります。ただし、新規の語彙は確認したら憶えられるという単純なものではなく、その言葉が使われている文脈を理解し、どのような文脈で、どのような言葉とセットで使われるか(「共起」という考え方)を丁寧に確認する必要があるので、超高速には読めません。

読書法不在の限界

一昔前に『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』という本が大ベストセラーになったことがありましたが、その後の読書研究で「小学校3年生までの読書量は読解力と相関性がない」ことが示されました。同時に、何かを学ぶために読むこと、つまり知らないことを知り、分からないことを分かるために読むような読書ストラテジーを学び始める頃から読書量と読解力に相関が見られるようになるとも考えられています。

結局、今の自分の読書力を高めたいと思ったら、今のスキルでは読めないレベルの本を読む必要があります。これには読書ストラテジーが必要です。また、知らないことを知るためには学習ストラテジーも必要です。

これらストラテジー抜きにして、ただ機械的に高速に本を読んだとしても、知らないことを知ることも、分かっていないことを理解することもできないわけです。

冒頭で紹介した新井氏の書籍を引き合いに出したように、普通にたくさん読んですら、読解力が高まらないわけですが、さらに高速に読むことを前提としてしまうと、ほぼ「暇つぶし」になってしまうことは想像に難くありませんね。

読書で賢くなるための鍵は何か?

ここまでの話で、もう明らかだと思うのですが、「読書を通じて賢くなる」ためには「知らないことを知り、記憶に残す」ことと「分かっていなかったことを理解すること」という2つの要素を手に入れなければなりません。語彙と読解力といってもいいかも知れませんね。

そして、その決め手は「量」じゃないということ。重要なことは「幅」を作ることですし、正確には「幅のある量」を作ること。そして読むのに負荷の掛かる「難易度高め」の本を読むこと

社会人でいえば、読みやすいビジネス書とか自己啓発書ばかり読んでいても、絶対に語彙力は上がりません。「語彙力を高める本」とか読んでも、もちろん高まりません。単語帳だけで単語の勉強しても、英語の会話とか作文とか読解とか、全然出来ませんよね?

難易度の高い本に挑むために必要な要素

もう1つ、先に書いた「ストラテジーを手に入れること」も重要です。これについては2009年に出されたPISAに関するレポートでも指摘されています。

Reading a lot is not enough: students who read a lot but who do not understand how to learn effectively perform worse in reading than students who read less but understand what effective learning entails.
▼寺田のてきとー訳
たくさん読むだけでは十分とは言えない。たくさん読んでいても、効果的な学び方を知らない生徒は、その逆の生徒と較べて成績が芳しくない。

── OECD, PISA 2009 Results, volume III: Learning to Learn, 2010 p. 98.

This confirms previous research that while enjoying reading is a necessary step towards becoming a better reader, it is not sufficient if it does not go hand-in-hand with a good understanding of how to use reading to learn effectively.

▼寺田のてきとー訳

このことで、前の調査結果が確かめられたことになる。すなわち、よりレベルの高い読み手を目指す上で、読書を楽しむことが必要でありつつ、効果的な学びを実現するために、どう読んだらいいのかしっかりと理解するということが伴っていなければ、それは不十分だということだ。

同上

こういう事実をきちんと踏まえず「まず読もう」、「とにかく読もう」というのは、はっきりいって馬鹿げています。
 
小学校の先生は、まず読書感想文とか書かせる前に、本の読み方を教えましょうよ。あと、作文の書き方も。
そういう基本的なリテラシーの指導がない先進国って、多分、日本だけなんですよ。だから「読めば読むほどに頭が悪くなる」的な謎事態が起こります。

社会人の方々も、一発逆転的な「右脳」とか「潜在意識」みたいなことをうたう速読に夢を見るのではなく、科学的な読書法と学習法を学び、速読で読めない本を多読しましょう。

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この記事を書いた人

1970年、福岡生まれ。名古屋大学法学部卒業。元福岡県立高校教諭(公民科+小論文)。
現在は九州大学・大学院(博士課程)に在籍し学習ストラテジー、読書ストラテジーを研究。
2001年に教職を辞し独立。教師時代から研究を続けていた高速学習と速読のメソッドを完成させ、その指導にあたる。速読と学習法を学ぶ3-4日間集中講座は98%の高い修得率と高い学習効果が話題を呼び、多くのビジネス書ベストセラー作家や経営者、MBA学生が通う人気ぶり。
 
そのメソッドを公開した書籍『フォーカス・リーディング』は10万部のベストセラー書。その他に読書や学習にまつわる様々な業務に携わった経歴を持つ。
・ベネッセ中学2年生コースの特集記事の指導・監修(2008年)
・西南学院大学での読書力養成講座(通年講座、2014年度から)
・司法書士スクールの高速学習指導(2015年度)
・学習塾経営者への学習法指導、経営指導

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