私(S45年生)が学生の頃というのは、新聞のコラムといえば「天声人語」。そして、国語の授業でも、天声人語の書き写し(写経)が定番でした。
大学入試をはじめとして、様々なところで天声人語が文章トレーニングの教材として使われていました。その影響でしょうか…
今でも小中学生の親御さんからこんな質問というか相談をいただきます。
子どもに、文章を書けるようにさせたいと思って、新聞のコラムを書き写させています。
どういう指導をしたら効果的ですか?
確かに、文章力を高めるために、まずは模倣から…という考え方は間違っていません。「型」を覚えてから創作へというのが、何かを学ぶ上で最強のパターンですからね!
実際、名文を書き写すことはとても理に適ったトレーニング法なのです。やり方を間違えなければ・・・
やり方を間違えると、文章力を破壊することにもつながりかねません。ご注意ください・・・
劇薬注意!─“新聞コラムの書き写し”の持つ危険性
それでは最初に、文章力・読解力を破壊しないために、注意すべきポイントを紹介してみます。
1.文章には様々なパターンがあり、漫然と書くと混乱する。
文章には論理的な文章と、文学的な文章があります。
論理的な文章だけを見ても、批評、説明、説得、レポートなど、いろいろなパターンがあり、それぞれに型があります。
新聞のコラムは実に様々なパターンで自由に書かれており、決まっているのは「文字数」だけ。これを書き写しても「型」の修得にはつながりづらく、また書き写している子どもも混乱してしまう可能性があります。
これは「問題」というレベルであり、「危険」の一歩手前です。
2.非論理的で、社会で通用しない文章を憶えてしまう。
昭和50-60年代に天声人語が文章の模範として扱われていたのは、それがたまたま辰濃和男さんという名文家が執筆を担当していたからです。
今の天声人語の文章の壊れっぷりは、なかなかエキサイティングです。
主張を隠して、文章の空気を読ませるようなものも多く、根拠を示して主張する論理的な文章の真逆をいく、とても日本的な文章なのです。
他の新聞コラムは分かりかねますが(日経新聞と西日本新聞しかとっていませんので)、筆写の教材として使う場合は、ちゃんと親・先生が「この文章なら!」というものをピックアップしなければなりません。
3.新聞社の主張が色濃く出ており、思想的に危険かも知れない。
まったく論理的でなく、偏った主張を平気で書くのも新聞コラムの特徴です。
そりゃ、新聞の一番読まれる部分ですからね。新聞社としては当然、その主張をしっかりと反映させているに決まっています。
子どもに学ばせるべきは「論理思考」「論理的文章構造」であって、どこかの思想ではありません。
このあたり、学校の先生は特に注意して欲しいものです。
それでもやっぱり天声人語!その効果的な活用法
朝日新聞さんは辰濃時代に築き上げた「天声人語は素晴らしい」という幻想を、今も大いに活用して商売をしています。
「天声人語書き写しノート」(単なる原稿用紙のノート)なる商品まで存在します。素晴らしい商魂ですよね。(^^*
現在の天声人語も、辰濃和男氏の時代とはまったく違う観点から国語力アップの教材として超お勧めです。
その危険すぎる性質を理解した上で、その性質を逆手にとって「正しい活用法」を心がけたいものです。
以下、天声人語を「文章力アップ」につなぐための注意点と具体的な方法をどうぞ。
1.模範的文章として辰濃和男氏の天声人語を書き写す
書き写して価値があるのは辰濃和男氏の時代の天声人語だけと考えましょう。朝日新聞出版社から単行本(文庫)として出ていますので(絶版ですが)、それを入手するといいですね。
ただし、テーマ別に編集されているものもありますので、何を選ぶかは慎重に! また、辰濃和男氏の天声人語が論理的で、文章の型が整っているという保証はありません。非常に散文的で、論の展開がちぐはぐなものもありますので、ご注意を。
2.今の天声人語は「読解力」「分析力」アップに使う
今の天声人語は「文章添削力」および「隠された意図を見抜き、伝わる文章に書き換える力」という、ちょっと応用的上級スキルを磨くときに使うのがお勧めです。
- 隠された主張を掘り起こし、主張と論旨を導き出すトレーニング
- 隠された論理、破壊的テイストの論理構造を整え、伝わる論理構造に書き換えるトレーニング
- 示されたデータと論理付けに対して反駁するトレーニング
こういう実践的な教材として、ハズレが少ないのが天声人語のいいところです。
- 隠された主張が何か?
- 論拠としてあげられている事実は何か?
- 単なる意見と憶測を根拠に、さらなる意見と憶測を重ねていないか?
そういうことを考えながら、筆者が本当に伝えたかった主張を言語化し、論拠を補いながら、一貫した筋の通った文章として書き直してみてください。
3.書き写す(清書する)場合は原稿用紙を使う
用意するのは「800文字」原稿用紙と鉛筆+赤鉛筆。
辰濃和男氏のものを筆写する場合でも、最近のものを完全に書き直す場合でも、必ず原稿用紙に鉛筆またはペンで書くようにしましょう。原稿用紙に書くことで、段落のボリューム、文章構造を捉えやすくなるというメリットが得られます。
また、手書きをすることは脳の活性化にもつながりますし、意識が「言葉そのもの」に向きやすくなり、句読点の位置、助詞・助動詞の使われ方、その他「言葉の響き」を吸収することができます。
ただし、筆写の前に必ず音読して「流れ」をつかんでおくようにしてください。
その上で筆写しますが、書き終わったら、さらに黙読しながら、接続詞の使い方、段落の切り方を学ぶために赤鉛筆で印を入れていきましょう。
段落のバランス、主張と根拠のつながりなど、「文章の構造」をあらためて分析的に読むわけです。こうすることで、伝わる文章の「型」を学ぶことができます。(辰濃氏の文章も型として壊れていることが時々あり、それを見抜けるようになりますよ。)
ということで、今も昔も文章力・批判力アップにつながる天声人語。大人も子どもも、正しい方法で楽しみながら文章力を高めていきましょう!
筆写で身につける文章力の教科書
もし、文章の型を身につけたいとか、表現の技法を学びたいと思ったら、こちらの書籍がお勧めです。
向後千春著『200字の法則 伝わる文章を書く技術』
文章の型を学び、モデルとなる文章を書き写すことで、整った文章をスムーズに書けるようになります。
こちらの書籍は完全にビジネス文章ですが、非常にロジカルな書き方のフォーマットと例文が豊富に示されており、この本の例文でまずはしっかりと基礎を固めておいてから天声人語に取り組むと、一層効果的ですね。
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