とある速読教室で6秒だけ読書スピードを測定して、その数値を10倍にして「あなたの現在の読書スピードは○○文字/分です」としていたところがあります。
6…たった6秒で何が読めるの? と愕然とするわけなのですが、他の教室も似たようなもの。
実は、そこにはある秘密があったのです。
なぜ、速読教室の読書スピード測定は1分なのか?
とある詐欺で有名な速読メソッド(※)を、教育工学の先生が、研究の一環として真面目に再現実験したことがあります。
結果は、多少は速くなったが、書籍に書かれているようなスピードは得られなかったとのこと。
※ここでいう「詐欺」とは「うたっている効果を上げることは難しい」「そもそも指導者がそのような速読を実践できていない」という状況を指しています
一応、トレーニング方法としては、書籍に書かれているとおりになさったようですが、1つ間違いがあったんですね。
それは、読書スピード測定で、かなり長い時間、読書させてしまったということ。
速読教室では1分しか測定しないのですが、件の研究者は「20-30分かけて読ませた」そうです。
いや、だって速く読めて理解できているかどうかを確かめるなら、それなりのボリュームを読まないとダメですよね?
そしたら、観察している間に、どんどんスピードが落ちていった、と。(苦笑)
ちなみに、それでも対照群(速読トレーニングをしていないグループ)と比較して、2割弱くらいスピードが上がり、理解度は普通通りだったそうです。
短時間での読書スピードの測定は…
冒頭で紹介した、わずか6秒の測定が「読書」と呼ぶにはあまりに意味がないものであることは、誰しも理解できることでしょう。だって、10倍速(分速1万文字)で読んでも、せいぜい2ページです。
そこに書かれていることが本当に理解できたと、どうやって確かめるのでしょう?
ちなみに、この問題は専門家によって厳しく指摘されており、アメリカ心理学会の「Psychology of Reading(読書の心理学)」では、次のように説明されています。
One thing that years and years of research on tests and measurement has told us is that a short test of anything is less likely to be reliable than a longer test. Later on, 440 of seventh-graders who had participated in this program were asked to read, and estimated reading rates were obtained based upon either a 30-second sample of reading or a 3-minute sample. The short reading test gave a mean rate of 780 wpm while the long test gave mean rate of 205wpm.
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▼寺田てきとー訳
テストと測定についての何年もの調査から1つ導き出されたことに次のことが挙げられる。それは、何事につけ短いテストは、長時間のテストに較べて信頼できない傾向にあるということだ。その後、7年生440人の速読プログラム参加者に、「30秒の測定」と「3分間の測定」のいずれかで読書スピードを測定してもらった。すると、3分間(長い時間)のテストの読書スピードの平均は205wpmだったのに対して、30秒の測定の方は780wpmという結果になった。
─ “Psychology of Reading”(p.383)
つまり、速読教室が1分など、短時間しか測定しないのは、本当に理解できているかどうかを確かめさせず、最大瞬間風速的な読書スピードを体験させて勘違いさせようという魂胆があるわけです。
ちなみに、フォーカス・リーディングの演習では、だいたい5分を目安にして速読実践をおこなっています。
事後の読書演習期間では、1冊を読み通す練習(最低30分)を2週間ほど続けます。この取り組みを通じて、より安定した速読スキルの活用が可能になるものなのです。
実は、他にもこんなカラクリが…
同書(『速読の心理学』)では、他にも速読教室のあざといやり方について、次のような指摘をしています。
1.事前テストより事後テストの文章が簡単!
これについては、日本の速読教室でもバッチリ採用しているところがあります。
このことを曝露しているブログがありますので、ぜひこちらを読んでみてください。こちらの記事、すごく有益な、本質を突いた読書の問題を指摘しており、一読の価値ありです。
この記事を読むと分かるのですが、事前のテストは物語、つまり緻密に読まざるを得ない文章を使い、しかも「この後でテストをやります」と告げられるそうです。
事後のテストは、話題の自己啓発書。読んでいなくても、見出しを確認したら中身が想像できるタイプの書籍です。
罠の1つは「事前:物語、事後:説明的文章」という部分。
「速読なんて存在しないことが明らかに」で紹介したRayner教授らの速読研究でも、説明的文章は既知の情報で処理できるから速く読めることが指摘されています。
さらにもう1つ。「事前のみ理解テストあり!」という罠。
実際のところ、事前に「テストがあります」というだけで、私たちは自動的にじっくり精読モードに突入してしまいます(これは「読書の柔軟性」に関する学術論文でも指摘されています)。
これはフォーカス・リーディングでも同じことが起こります。
2018年1月に実施した3日間講座で読書テストを実施しました。受講者の皆さんは、新書を読むのに20分しかかからないレベル(平均4500文字/分くらい)に到達していました。しかし、「読み終わった後にテストをします」と伝えて夏目漱石の『坊ちゃん』を読んでもらったら1300文字/分に落ちました。これは先ほどの罠の逆パターンです。物語文+読書テスト宣言を事後テストでおこなった訳です。
このテストは、3週間ほど読書演習をしてもらった後にもおこなっています。やはり「テストを受ける」という前提を作ると、分速1300文字程度で、まったく変わりませんでした(その代わり、正答率が非常に高くなり、みなさん、ほとんど満点になりました)。
つまり、今話題の「3分で読めて忘れない」といっている読書法は、3重に罠をしかけているわけです。
- 短時間しか測定しない
- 事前の測定で「テストをします」と宣言する
- 事前と事後のテストで読むものを変え、事後の方がスピードが出やすくなっている
2.まったく同じテキストで測定する
こちらは右脳と左脳のジョイントをうたう教室でおこなわれている方法です。
そもそも測定時間も短いのですが、測定に使う文章が毎回同じ(トレーニングも同じテキスト)。そりゃ速くもなるでしょうよ・・・というやつです。
速読教室に通ってみようかな…と思う人は、そういう現実をしっかりと理解して、もし体験会でここで紹介していることに遭遇したら「これが詐欺のやり方か!」と冷静に判断してください。
なお、それでもなお「信じていいのかも?」と思ったら、こちらの記事に書いていることを確かめてみてください。
そこが本物かどうかが分かりますよ。
ちなみに、上にヨソ様のブログでご紹介した速読講座の体験会に、知人が参加したそうです。
そして、上記「たった1つのポイント」に書いてあるとおり、実演をしてもらうための本を1冊(ビジネス書)を持参したそうです。そして「この本を読んで見せてください」とお願いしたところ、主催者のY氏は「すみません。読めません。」と謝罪されたそうです…。
本人はできないけれども、受講者はできるようになるという理屈が分からないのですが、教育サービスの責任はどうなるのでしょうかね?