最近ある経営者の方との会話で、こんな話が出てきました。
何かの作業の手順とか、原理とかを口頭で説明した時、必ず「すみません、もう1回お願いします」って聞くスタッフがいるんだよね。
あれは集中力が散漫なのかな? それとも、理解力が低いのかな?
速読させて、本を読ませたら直る?
およそこんな話。
もちろん、可能性はいろいろありそうです。
そもそも集中力が散漫とか、気が散りやすい(音へのアレルギー反応、ADD的注意散漫とか含めて)とか。
聞いてないの? 処理できてないの?
実をいうと同じような話を小中学生の学習指導をしている人にもお聞きしますので、まぁ原因はココだよね…というところです。
(1)基礎的な学力ができていない(基本が理解できていない)、(2)読書量が少なく、語彙や筋道だった話が処理できない、という子どもは、授業中「黒板の内容をノートに写すだけ」で終わりがちなんですよね。
現実問題として、「聴いて理解できていない」というのは、読書量・読書力不足を疑ってみる必要がありそうです。
ちなみに「聴解能力」という言葉があるのですが、これは以下のような様々な能力が関わると考えられます。
- 語彙
- 短期記憶
- もともと持っている知識・経験
- 言葉の流れ(広い意味での読解力・論理的思考力)
話し言葉、とりわけ作業の説明などの場合、難しい言葉や語法はないと思いますので、単純に「言葉からイメージする力」が足りないと考えていいでしょう。
経験から推測・想像する力だったり、作業をリアルタイムでイメージ変換する力だったりね。
社会人を対象とするフォーカス・リーディング講座でも「もう1回いいですか?」と度々聞き直す人が時々いらっしゃいます。人の話を聞こうとしないオジサマを除けば、読書量、とりわけ文学作品や難しめの本を読んだ経験がない人にその傾向が強いようです(あくまで「実感」ベースですが)。
ついでにいうと、「質問はしないけど、トレーニングに取りかかってみると、見当外れなことをしている人」も同じです。
- 話をイメージ化できず、説明されたことを具体的な作業に落とし込めない。
- 前段階で話したことと、現在聞いていることが結びつかず、筋違いな理解をしてしまう。
- これから目指すゴールと、今やろうとしている(説明している)ことが結びつかず、意図が汲み取れない。
1を聞いて100を知ることができるか。
1を理解するために10くらい聞き直すのか。
──その違いで、人生、かなり損をしている可能性がありますよ。
同じことを聞いているのに、ちゃんと吸収できていないということは、時間とチャンスを失ってしまう可能性があるわけです。小中学生であれば、授業で理解できない分を塾で補わなければならなくなりますよね…。補えればいいのですが、それにも限界がありますし。
「もう1回いいですか?」をどう解消するか?
もし、原因が「語彙力不足」「理解力不足」にあるとしたら、それを解消する確実な方法は「正しい読書法を学び、読書を積み上げること」です。
小中学生の「文章問題が苦手」というレベルであれば、読解演習(言葉の読み解きと、言葉のイメージ化)だけで解消するはずです。
速読で「受け皿」が変わった話
本を読んだり人の話を聞いたりする時の、基本的な理解力のことを、私は「(情報・知識の)受け皿」と呼んでいます。
この受け皿が変わることで、聞く力も理解力も驚くほど変わります。
もう、随分と前の話ですが、子ども向け速読講座に「塾に行ってるけど成績が上がらない」という男子中学生が来ました。
塾も辞めて、速読講座にかける!という感じでしたが、もともと読書は苦手で、本はあまり読んでいない子でした。
速読講座を受講し始めて1-2ヶ月ほどで読書が習慣化し、週に2冊ペースでジュニア新書を読むようになりました。
もちろん、速読でざっと読むだけでなく、その後に丁寧に読む作業もこなしますし、それを補うような読解トレーニングもしています。
結局、半年ほどで退会したのですが、それからしばらく経ってお母様と学校(授業参観)でばったり会いまして、近況報告をいただきました。
最近、突然成績が上がったんですよ! 別に塾に行かせたわけでも、勉強時間が増えたわけでもないのに…。
本人いわく「授業が無理なく理解できるようになってる」って。
親子での会話では「きっとこの数ヶ月間の読書のお陰だろう」という結論になったとのこと。
こういう話には枚挙に暇がありません。
正しい読書法を学んだ上で、幅広いジャンルの本を大量に読む子は、塾に行かなくてもだいたい学校の成績は高いものです。
大人は何をしたらいいだろう?
ここまでの話で、すでに答えは見ていると思うのですが、あえて解説をしてみたいと思います。
速読+熟読で受け皿を育てよう
まずは知らなかったことを知る努力をしましょう。そのためには速読技術が有効です。
興味の持ちづらいジャンルの書籍でも、速読で処理できればストレスがありません。
ただし、知らなかった言葉、知らなかった概念(考え方)を受け止めることに意味がありますので、必要以上に速く読みすぎないこと。知性の幅を広げる読書には、1ページ6-9秒よりもゆっくり処理する必要があります。(それより速くなると、感覚的で軽い確認作業にしかならない可能性が高いのです。)
その一方で、何より重要なのは「熟読」です。
これについては、次のような「自分の知性をレベルアップさせてくれるような本を、レベルアップするような読み方で読む」ことが重要です。
内容が深い・濃いめの新書を読む
まずは1冊、興味深い話だけど、実は深い話が書かれた本を用意してみてください。
何でもいいのですが、例えばこんな本。
50年間読み継がれてきた100万部のベストセラー。
私の大学での読書法授業でも課題図書として使った「日本社会の構造を知る」教科書です。
平易に見えて実は奥が深い本を読む
もっと易しめの本をご希望なら、こちらなぞいかがでしょう?
こちらも読書法授業で課題図書として使いました。
知る人ぞ知る名著。島田紳助氏の講義を書籍化したものですが、非常に学ぶものが多い本です。元が「講義」なので、話の展開が整理されておらず、「行間を広く・深く読む」ことが求められる本です。
こういう「流れを自分で補いながら読む」理解を状況モデルの理解と呼びます。豊富な前提知識、推論力が試されますね。
どう読んでいけばいいか?
「どちらを読んだらいい?」─ と聞かれたら、迷わず「上」と答えます。
下の島田紳助氏の書籍も非常にいい本なので、まだ読んでない方はぜひどうぞ。
どちらの本も、何か難しいことが書かれているわけではありません。
でも、あえて、一文一文を吟味して、丁寧に読んで欲しいんですよ。
「なんで、紳助はこんなことを言ったのだろう?」
「これは、今の自分の社会に当てはめると、どの現象に当たるのだろう?」
あるいは、一人で吟味して満足せず、できれば誰かと読書会をする。
そして、1文、1ページごとに自分の言葉で語ってみる。人の話を聞いて、解釈の違い、視点の違いを受け止める。
紳助氏の本は講演録なので、言葉が途中で変わったり、流れが切れていたりします。そこを丁寧に推論でつなぎましょう。
タテ社会の本は、大学の先生が書いた本。全体として平易なのですが、ところどころ、「?」となるような文が出現します。そこをスルーしてしまわないように、丁寧に分解・分析しましょう。
大切なことは、“なんとなく分かる”で流さないこと。
そして、自分の言葉で解説できるレベルまで落とし込むこと。「分かったつもり」をどこまで排除できるかが勝負です。
余力があれば、ミクロに分析するだけでなく、マクロの視点で、章と章の関係とか、前の章の話とのつながりとか、そういうところまで分析したいところです。
そのためには、分析的に読んだ後、フォーカスを「流れ」と「構造」に当てて速読してみるといいですよ。
1つの可能性に過ぎませんが、少しずつ、自分の「?」を見つけ、それを粘り強く解き明かしていく作業は、脳のワーキングメモリー、言葉の咀嚼力やイメージ力、そして言葉に対する集中力を強くしてくれるはずです。
そういえば、自分も もう1回いいですか?って聞き直すことあるかも…
そんな自覚があるなら、ぜひ丁寧に吟味、イメージしながら読む読書を少しずつ試してみてください。
さらに上のレベルを目指したい?
もし、さらに高いレベルの読解力、読書力を手に入れたいとお考えでしたら、こちらの4冊に挑んでみてください。
どれも時間をかければかけるほどに学びが深まる良書です。